少年時代、学校で作った木彫りで賞をもらうことは常連。木彫りと機械いじりが大好きな伊庭さんは、高校を卒業後、モノづくりの一翼を担う機械設計の仕事に就かれました。何でも全力投球の伊庭さんは、すぐに社内でなくてはならない存在となられます。しかし、入社３０年目を迎えられた時、木彫りのレリーフや彫刻を作った、子供の頃の思い出が頭をよぎる様になったのだそうです。「一度断念した芸術の道。子供の頃の捨てきれない夢を実現するため、残りの人生を木と共に生活したい」伊庭さんは、やもたてもたまらなくなられ「自由な時間が欲しい」と、48才になるとすぐにサラリーマンを辞め、今までの仕事を請負とする契約社員の道を選ばれたのです。ビックリする位、思い切りがいいですよね。

木地師になることも考えられたそうですが、「仏像を彫りたい」と心が決まりました。しかし…、「仏像の表情や表現が上手くなる」と能面を彫ることを勧められ、能面教室にて能面づくりを手掛けられたのです。1999年の事でした。これが伊庭さんの将来を決める、大きな出来事になりました。世界各地に美術品として面は多数ありますが、均一な形に極彩色な色付けが施してあるモノばかりで、能面ほど微妙な表情や複雑な色付けをしている面はありません。高い技術を必要とする能面づくりは、持ち前の旺盛な好奇心と探究心に火をつけました。「良いモノをつくりたい」「本物を更に追求したい」と、本物の能面を見るために、福井、京都、兵庫を廻られました。その後、京都の能面師、中村光江氏に師事され、伊庭さんは頭角を現される様になったのです。翌年(2003年)には、福井県池田町で開催される「能楽の里・能面展」で、300名の中から5名が選ばれる「能楽の里賞」を受賞。2005年には福井県で開催された国民文化祭の「能面の祭典・能面公募展」にて、「国民文化祭実行委員会会長賞」を受賞されたのです。

能面づくり伝統芸術の部類には該当しません。それは能面の基本が”写し”だからです。古い能面を、いくつもの形紙(20枚程度)に取って模写し、その形紙に合わせて、キメ細かくて柔らかい木曽桧を彫っていきます。面打ちの最大のポイントは、能楽師の舞でどちらにでも感じてもらえる半笑い、半泣きの中間表情をつくり出すための、形、表情、色付けの作業。これらが本物を追求されていかれるなかで重要なのです。伊庭さんは、面打ち１ヵ月、色付け１ヵ月の製作工程約２ケ月で能面をつくり上げられます。しかし、あくまでも能面の完成は、能楽師が舞台の上でつくるものなのだそうです。深いですね。

能面を知れば知るほど、「能の歴史があるのに、どうして滋賀の能文化のレベルは低いのか」「京都に負けないレベルに上げたい」と、伊庭さんは考えられる様になられました。能楽謡をなさる出路さんと「能楽文化(謡・囃子・舞・能面)の良さを広く滋賀の地に定着させ、伝承すると共に、その発展に寄与する」ことを目的とした『滋賀能楽文化を育てる会』を2005年に設立されたのです。一昨年、ひこにゃんブームにわいた”国宝・彦根城築城４００年祭”にて『滋賀能楽能面の集い・彦根』の開催実現に、滋賀能楽文化を育てる会も尽力されました。今年の夏から能面打ちを生業とされた伊庭さんは、すでに開講している能登川、草津の能面教室に加え、滋賀の能楽文化普及のために長浜でも能面教室開催を予定されています。初心者の人でも、半年から１年で一つの能面が仕上がるようにプログラムされていますから、参加された皆さんは全員成功体験を味わう事ができるそうですよ。また、お忙しい人向けにも、３カ月６講座の能面打ち体験講座も用意されています。ご興味のある方はこのアドレスをご覧下さい。

http://www.biwa.ne.jp/~iba-tmh/index.htm

伊庭能面教室へのお問い合わせ、お申し込みは下記までお願いします。
TEL・FAX　0748-42-1116 :携帯電話　090-8885-2674

「子供の頃の捨てきれない夢を実現するため、残りの人生を木と共に生活したい」伊庭さん。創作というカテゴリーを持っていない能面打ちにおいて、オリジナル創作能面にも取組んでおられます。その挑戦は能面に留まらず、お忙しく時間がない中、あらゆる木彫りを手掛けておられます。いつかは最初にやってみたかった、木彫りの仏像も立派につくられるのでしょうね。