KIRARI MACHINOHITO

キラリ・まちの人

ふるさとに 
芸術・文化・伝統・風土を育む

【版画家】 田中 武(たなか たけし)

今回は東近江市佐野町にお住まいの、祈りの版画家、田中武さんをご紹介します。

 

京都でデザイン会社にお勤めだった頃の田中さんは、年に1回、年賀状に版画を彫られる程度の活動でした。25年前に能登川に移り住まれた頃から、本格的に郷土玩具を題材にした創作活動を始められました。誰一人知人がいない土地で、ふと入られた喫茶店。そこに飾られていた人形を見たとたん、「これが自分の求めていた物だ!!!」と激しい感動と深い感銘を受けられたそうです。カラフルで躍動感のあるその人形は、『小幡でこ』でした。そしてなんと…、その喫茶店のマスターは、もと勤務先だったデザイン会社の同僚でした。人の縁とは不思議なものですね。以来、創作の題材となる『小幡でこ』の収集と、小幡人形保存後援会『グループ凸(でこ)』の活動にも参画されていかれました。小幡人形保存後援会の会報も発行されていて、もちろん、その表紙は田中さんの作品でした。当時、『小幡でこ』は散逸して滋賀県内には余りなかったらしく、また後継者もありませんでした。その頃の田中さんは『小幡でこ』の保存を願って、祈りの心を込めて版画の製作に取り組んできたと話されていました。

 

20年程前に能登川青年会議所と秦荘町が取り組んだ、金銅聖観音坐像(こんどうぞうしょうかんのんざぞう)の里帰り運動《金剛輪寺旧蔵、現在米国ボストン美術館(ビゲロー・コレクション)で所蔵されている、海外に流出した日本至宝の文化財の日本での公開展示事業》で実現した、レプリカ観音坐像を題材として作品を創られました。それをきっかけに、秘仏本尊聖観世音菩薩を描かれた田中さんの版画は、今でも金剛輪寺本堂に安置されている秘仏本尊聖観世音菩薩のお厨子の前に飾られています。一度、紅葉の時期にでも金剛輪寺を覗いてみて下さい。

 

これを契機に田中さんの作品の題材は、郷土玩具にとどまらず各地の仏様や中国の年画《伝統民衆版画》へと広がっていきました。家族や子供達の健康や成長を、一族や知人の繁栄を、地域の発展やにぎわいを願っているものばかり。これらは全て、祈りがテーマです。郷土玩具や年画には伝統的な基本色があるため、その枠を越えない範囲でアレンジして版画に着色をされます。また仏画は、墨でモノトーンに仕上げられるものもあります。構図も色合いも、実に大胆で迫力があります。

 

歩くエンサイクロペディア(百科事典)と称された反骨の世界的博物学者で、自然保護運動に命をかけて闘いぬいた南方熊楠に共感され、南方熊楠を題材にされた作品を作っておられます。その版画が、南方熊楠や柳田国男の研究で知られる上智大学名誉教授で社会学者の鶴見和子(故人)さんのお宅に飾られています。鶴見さんは「これが私の宝物よ!」とおっしゃって、訪問客に田中さんの版画を紹介しておられたそうです。歌人でもある鶴見さんは、この版画と作者の田中さんに対してこんな歌を詠んでおられます。『曼茶羅図(まんだら)ひらめきし刻(とき) 熊楠の眼のかがやきを映したる板画(はんが)  〔田中武 作〕』

 

また、祈りの版画家として創作活動に取り組むかたわら、街並みや建物の保存活動にも積極的に参画されています。現在は保存が決定した旧豊郷小学校の修復活動に興味を示され、先人が築いた美しい作品を、少しでも多く現存状態を保ちながら活用される祈りを捧げておられます。

Contact

お問合せ

■ 法人のお客様はこちら

0120-072-834

月〜金 9:00-18:00 定休:土日祝

■ 個人のお客様はこちら

0120-15-4939

9:00-18:00