ふるさとに
芸術・文化・伝統・風土を育む
大学で東京へ。そのまま東京の広告会社に入社され、鉄道関連のPR誌編集を経てフリーの鉄道フォトライターに。その間、滋賀へ帰省の際に、懐かしい近江鉄道に誘われるように乗られます。板張り床の油の臭い、懐かしい車両の雰囲気、時を忘れて終点貴生川まで乗り越されます。車窓を眺めながら「こんな良いローカル線があるのに雑誌の記事が少なく、詳しいライターが関西にはいない。それなら近江鉄道や滋賀の鉄道の魅力を密着して発信できるライターになろう」と東京と滋賀を行ったり来たりの生活に。県内各地の鉄道を毎日のように訪ね歩き、全国誌で滋賀を表現するために様々な出版社へ企画書や写真を送り、鉄道特集が多かった日本交通公社(JTB)の老舗旅行誌『旅』の編集部に注目され、同時にNHKの番組で取材風景が紹介されるなど、滋賀にUターンしてもやっていける自信を得られました。その後、30歳でUターン後もスタンスは変わらず、着実に発表を続け、写真個展も多数開催。定評を得た後に発行された交通新聞社月刊誌『鉄道ダイヤ情報』2005年10月号では近江鉄道の大特集を構成。「全国誌で20ページも近江鉄道が特集されました。異例なことでした」と辻󠄀さん。自著の『関西 鉄道考古学探見』(2007年JTBパブリッシング)では京阪神と同じぐらいに滋賀の研究成果を発表され、ロングセラーになりました。「滋賀は街道時代から交通の要衝です。鉄道についても同じで、国鉄が指定保存した鉄道記念物が“現地”に一番多く残っている県です。近江鉄道の歴史も長く、創立以来120年以上も社名の変更がなく、鉄道会社の社名として日本最長記録を更新中です」と辻󠄀さん。120年前に明治時代の先人たちが築いた英国製の鉄橋や煉瓦造りのトンネルなどを専門家ならではの詳しい解説で訪ねる近江鉄道探訪ツアーが人気で、滋賀県知事を会長とする近江鉄道沿線地域公共交通再生協議会では、知事や沿線市町の首長と近江鉄道フィールドワークを行い、総合案内役をされました。県内の各JR線沿線自治体からの講演依頼もあり、草津線全通120周年時や近年では、地元の能登川駅開業120周年記念行事での講演もされています。辻󠄀さんの地域に根ざした活動がうれしいですね。
全国の鉄道についても著作が多い辻󠄀さんは、児童向けの鉄道図鑑の執筆もされています。また、ツアーでは小中学生の参加もあり「将来の滋賀を担うお子さんにこれまでの経験を活かした何かを伝えていければ」と話されます。今年、2022年は日本の鉄道が開業して150周年。辻󠄀さんは鉄道の歴史の専門家でもあり、今年8月に徳間書店から『日本の鉄道150年史』を上梓されました。滋賀の鉄道の魅力を、在住しながら全国に発信されてきた先駆者で、その活動は線路がつづくようにどこまでもつづきます。