その後、芸術系の大学の絵画コースに入学された大黒さん。「本格的に芸術活動に取組んだのはこの頃からで、3回生の本科から立体の制作にのめりこみ、彫刻は大学院で取組みました。当時、美術学科でアートについて語る人はたくさんいましたが、現代アートについて、僕が納得できる説明をしてくれる人は、ほとんどいなかったように思います」と話されます。

大学院を修了されて一度帰郷し、周りの友人知人の就職が決まっていくのを眺めていると、焦りや不安からどうしようもない孤独感に陥り、自分の存在価値を見出すことが難しかった時期。作家として自身の実力を確かめるため、ドイツに行くという大胆な行動を大黒さんは決行されます。「特にベルリンは欧州の現代アートのメッカなんです。人脈もなく言葉も分らない外国でゼロからスタートして、コマーシャルギャラリーで展覧会を実施するという目標を立て、1年間という期間を決めて頑張ろうと決意し、ベルリンへ向かったんです。

何もなければ作家としての運はないと見切り、別の道を歩もうと考えていたんです」と笑われます。向こう見ずというか、すごい勇気ですね。語学学校でドイツ語を習いながら、創作活動をする日々。そんな中、大黒さんに転機が訪れます。語学学校の先生にベルリンのギャラリーを紹介されてグループ展に出展できる機会を持つことができたのです。

また、展覧会に出品する作品をベルリンの工房で制作している時に、知り合ったアーティストとの交流から個展の開催にもつながり、ドイツ東地方で開催された国際木彫シンポジウムのアーティスト・イン・レジデンスにも参画されました。当初の目標を実現された大黒さんは、1年3ヶ月の滞在を経て帰国されます。

大黒さんの作品は主に木、和紙などの自然素材が使われ、自然からインスピレーションを受けた多種多様な形で、植物や花、穀物や果実を連想させます。また無機的な構造と有機的な形というコントラストが遊びを感じさせます。アートと自然が融合しているかのようです。創作についてお尋ねすると「いつもぼやっと、ずっと考えています。ドイツに行ってドローイングの重要性を教わり、アイディアやイメージはその都度、ドローイングやメモ(文章)として残しています。ドローイングとは、彫刻が生まれてくるずっと以前にある予兆の様なものなのですが、作家の音色が出てくると独立した作品にもなるんですよ」と話されます。

2011年の春、再びドイツに渡り、ベルリンのコマーシャルギャラリーやハーフェルランド郡、また私立財団などと連携しながら、精力的に約5年半活動をされました。その過程で今までの自然素材だけでなく、屋外での展示ができるよう、金属や建材などの新しい素材も取入れられました。また、大小の彫刻に加えて、平面作品も手掛けられます。「ドイツ人は作品を観るとき、理論的な観点から入るのかなと思っていましたが、僕のギャラリストとの交流で解ったこと。それは作品の良し悪しは一瞬の直感で判断し、その後になぜ良いのか悪いのかの論理がついてくるのだなぁと気づいたことです。現代アート作品において、異質性が内包されていることは、重要なキーポイントの1つになるんじゃないかと思っています。時代を超えても、色々な解釈が生まれてくるミステリアスな作品を僕はつくりたいですね」と大黒さんは話されます。

2016年、ドイツからの帰国直後、東日本大震災で被害を受けた岩手県大船渡市に約1か月滞在されました。そして現地で地元の方々と協力しながら4.5mの大作を制作し、展示されたそうです。今度はその作品を琵琶湖岸に展示したいと考えておられます。今後は、国内外で作家としての発表も行いながら、日常的な生活の中にも自身の作品を介入させるプロジェクトを展開していきたいと力強く語られました。

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