ありがとうマンが贈る
〜心に残るありがとう〜 話
2022.09.05
俺が結婚したのは20歳の頃だった。妻は21歳、学生結婚だった。2年程貧乏しながら幸せに暮らしていたが、ある時妊娠が発覚。俺は飛び上がる程、嬉しくて一人ではしゃいでいた。
「無茶はしないで」という妻の言葉も無視して、次の日には退学届けを提出。
叔父さんの経営している会社にコネで入れてもらった。
とにかくやる気満々で、働きまくって子供を元気に育てるんだ!ってなもんだった。今考えても単純だったと思う。
けどそんな幸せも長くは続かなかった。
その後しばらくして、交通事故で妻がお腹の子と一緒に死んだのだ。この辺りは本当に今でも良く思い出せない。
何やら言う医者につかみかかって殴り飛ばしてしまったこと、妻を轢いた車の運転手の弁護士を殴り飛ばしたことはうっすら覚えている。
無茶苦茶だった。
それでも何とか葬式をすませ、手続きなんかもこなし、何日か実家で休んだ後家に戻った。
それからは日付の感覚もなく、ただ呆然としていた。テレビも見ず、ただ、米を炊いて食う、それだけの毎日だった。
自分が鬱なのだとか、落ち込んでいるのだとか、そういう思考もなかった。自分でも状況がよくわかっていなかったのだと思う。おそらくそんなこんなで半年は生活していたと思う。
そんなある日、夢を見た。どんな夢だったかはほとんど覚えていない。とにかくひたすら謝っていたように思う。
ふと目が覚めて、「あぁ・・・何か悪夢をみたな」と身体を起こすと、目の前の光景に心臓が止まるかと思った。
目の前に小さな女の子がちょこんと座って俺を見ていた。
「なんだこれは、夢か?まだ夢か?」
そう思いながら、自分の心臓の鼓動で視線がぐらつくのを感じた。
とっさに水子の霊だと思った。
死んだ俺の子が化けて出たんだと。その時が、はじめて自分の妻と子供が死んだとちゃんと認識した時だったように思う。
その子が、「大人なんだから、ちゃんとしなきゃだめなんだよ!」と俺を叱りつけた。
もう混乱に継ぐ混乱だ。
汗なんかダラダラ出て、心臓麻痺で死ぬんじゃないかと思った。
その時、部屋のドアから大慌てで隣の部屋の奥さんが入ってきた。
「すみません!この子勝手にはいっちゃって・・・」
そこでやっと現状を把握した。よくよく見れば、この子は隣の家の子供で、妻がいた頃は何度も会話を交わしたことのある子だった。
ドアを開けっ放しにして寝ていた所に入ってきた実在の人間だ。幽霊じゃない。
「ああ、違うのか」と思った瞬間、何だか目の前の幕がはがれたような感じで、俺はその子にしがみついて号泣していた。
「すいません」と「ありがとうございます」を意味不明に連発していたと思う。
後から聞いた話では、そこの一家は引き篭もっていた俺のことを心配してくれており、何度も夫婦で何をしてあげたらいいか、と相談していたらしい。
その相談を一人娘のその子は聞いていて、落ち込んだ大人を励ましてやろうと喝を入れにきたらしい。
すごいやつだ。
とにかく、その日がきっかけで俺はカウンセリングに通い、2ヶ月程で何とか職場復帰することができた。届けも出さず休んでいた俺を休職扱いにしてくれていた叔父には本当に感謝している。
隣の夫婦とも仲良くなり、寝起きの悪い旦那を起こしてくれ、とか言う無理のある理由で、毎朝家に呼ばれ、朝飯をご馳走になった。
とにかくもう俺の周りの人間が神級に良い人達だった。俺は救われたし、妻と子供の死をちゃんと悲しむことができた。
で、その娘さんが先月結婚した。
親戚が少ないから、とか言う理由で式にまで俺が呼ばれ、親族紹介のあとその子と話す時間があった。
あまりにも綺麗になったその子に動揺して、「オメーもまだ18才なのに結婚しちゃってもったいないな」
などと俺が言うと笑いながら、
「寂しいのか、あんた?w」などと言いやがるので、
「寂しいよ!」と言ってしまった。
「俺は昔、お前に助けてもらった。お前のお父さんとお母さんにも助けてもらった。
だからお前のこと大好きだ。だから寂しい!」とまくし立てるとまた号泣していた。
30過ぎたおっさんがヒックヒック言いながら花嫁の前で号泣だ、かなり恥ずかしい。気づくとその子も大泣きだ。新郎側はびっくりしただろうな。
親以外のおっさんと新婦が大泣きしているんだから。
俺は今でも結局独り身だが、その子が困ったら何が何でも助けてやろうと思っている。恥ずかしいのでその子には言わないけどな。
もう俺にとってはあの子は自分の娘みたいなものなのだ。俺の二人目の子供だ。
本当に、ありがとう、ありがとう。いつまでも幸せにな。
何よりも、私を支えてくれる廻りの方々に感謝ですね。身近な方々に「ありがとう!」ってつたえなきゃいけませんね。